-
『家守綺譚』梨木香歩,新潮社 (古本)
¥400
『西の魔女が死んだ』『沼地のある森を抜けて』などで知られる著者の連作短編集。 舞台は100年前の日本。駆け出し作家の綿貫征四郎が、庭木の百日紅(さるすべり)の木に思いを寄せられたり、里山で出会う狸や狐に化かされたりと、昔ばなしのような掌編が綴られる1冊。 征四郎がそうした出来事に驚いたり訝ったりする一方、隣のおかみさんや周囲の人は当たり前のこととして話すので、読んでいるこちらもなんとなくそういうことかと思える不思議な説得力があります。 まだ日本人が自然とともにあった、生と死、現実と幻想が混ざり合っていた時代に生きるものたち(人と人にあらざるもの、この世のものではないもの)がすべて横並びで、とてもイキイキと、時にはコミカルに描かれます。困っている相手に手を差し伸べる優しさと、生きるために相手をだますたくましさを持ち合わせ、ひたむきに与えられた世界を生きる彼らのなんとたくましいこと。物語であることを忘れ、日本人である自分のベースに彼らのそうした気質が少しでも残っていれば…と思ってしまいました。 続編である『冬虫夏草』は、本作の静謐さとは対象をなす、行方知れずになってしまったゴローを探しに旅に出る征四郎の冒険譚。タイトルは、虫に寄生し、その名の通り冬には虫の姿で、夏にはきのこの姿となる生態を持つ寄生きのこの名前。そんな、『沼地のある森を抜けて』とも通じる、与えられた場所、運命を生きる命の物語といえます。(土澤あゆみ) ■詳細 古書、文庫 七刷 経年によるスレ、折れなどがありますが、大きな傷みはありません
-
雑誌「Monkey Vol.7」
¥1,000
翻訳家・柴田元幸さんが責任編集を務める雑誌「Monkey」のVol.7です。 特集は「古典復活」。個人的には古典作品にあまり馴染みがないのですが、村上春樹と柴田氏の古典小説についての対談は、意外にも自分でも知っている作家の名前が並び、加えて、紹介されている作家のプロフィールや代表作などを記した詳細な注釈がつけられているので、「もしかして昔読んだことがある…?」と記憶が掘り起こされること多々。 特集の中で紹介されているジャック・ロンドンの短編「病者クーラウ」(村上春樹訳)は、その削ぎ落とされた文体で描かれる物語の、重苦しさ、救いのなさ、そして物語の最後に訪れるささやかな救いに、胸がしめつけられる思いがしました。現代においては忘れるべき忌まわしい過去として扱われてしまうような人類の歴史(体制側と個人の戦い、そして今まさに繰り返されている人類と感染症との戦い)を文芸作品として昇華した短編です。 また、長編「忘れられた巨人」発売時に来日したカズオ・イシグロの講演会の様子も紹介されています。世界中で自著が読まれるということ、世界中の人々に向けて物語を書くということについて、そしてイシグロ氏の物語の主題であり続けている“記憶”についてのお話と、イシグロファンにはもちろん、小説家という職業に興味のある方にも読んでいただきたい内容です。 加えて、日本では2017年、2020年に回顧展が開催されたイラストレーター、写真家、ソール・ライターについてのインタビュー記事も掲載されています。私自身は2020年の回顧展までその名前をまったく知らなかったのですが、現在、日本でも多くの人がその写真と人となりを知ることとなりました。 記事の中でソール・ライター財団のアーブ氏とゴールドファーブ氏が、何気ない風景を映したライターの写真に対して、「すべてのものは丹念に見るに値するということを教えてくれる」と語っていて、今このコロナ禍において、これまで通りの生活を送ることすら難しくなった世の中で、それでもやはり、この世界は生きるに値すると言われているような気がして、救われる思いがしました。(土澤) ■詳細 雑誌『Monkey Vol.7』(スイッチ・パブリッシング) 208ページ 2015年10月15日発行 古書。表紙カバーに擦れがありますが、他は特に目立った傷みはありません。
-
『BROWNBOOK ブラウンブック』No.50 THE ELDERS
¥7,800
数ある洋雑誌の中で、おそらく私が最も好きなのが、このブラウンブックである。紀伊國屋書店新宿南店(かつての職場)の洋書売り場で見つけたのか、代官山の蔦屋書店で見つけたのか、記憶が定かではないが、初めて見たときのワー!という感じが忘れられない。 イギリス発の雑誌『MONOCLE モノクル』のデザインチームが、ブックデザインを手がけていることもあり、グラフィック、紙面構成、紙質、ブックインブックも含めて、クオリティがむちゃくちゃ高い。そしてチャレンジングだ。 誰がやっているの?と思いきや、わずか私の2歳年上、1983年ドバイ生まれの双子、Rashid Shabib / ラシッド・ビン・シャビブと、Ahmed Shabib / アフメッド・ビン・シャビブの2人が、2007年に2,000部で創刊。現在は、世界40都市、25,000部を流通させているという。 ※B印吉田のインタビューに詳しい。 彼らのオリジンである中東のライフスタイル、アート、カルチャーを発信しているだけあって、メインの英語に添えるアクセントとして、アラビア文字が有効に配置されている。 アジアでも、こういうマガジンがあったら面白いと思うが、まだお目にかかったことがない。知ってるよ!という方、あるいは、ないならつくろう!という方、ご一報ください。 2015.12.30 星野陽介
-
『メグレと殺人者たち』(中古) ジョルジュ・シムノン,河出書房新社
¥600
またしてもメグレ警視シリーズです。裏表紙の解説には「推理とサスペンスをリアルな筆致で描く最高傑作」とあり、かなり期待を煽られつつ手に取った1冊をご紹介します。 物語の発端は、2月のある昼下がり、メグレ宛にかかってきた知らない男からの緊急電話。その男は殺し屋に追われていると言い、取り乱して電話を途中で切ってしまう。そして、その後も場所を変えながらメグレに助けを求めてくるのだった。いたずらかと思いながらも部下のジャンヴィエにその男を探させ、メグレ自身も彼の道筋を追うが、男は姿を消してしまう。そしてその日の深夜、コンコルド広場で男の死体が発見される……。 この本の原題は「Maigret et son mort」=「メグレと彼の死人」で、読んでみるとわかるのですが、こちらのほうが物語のタイトルとしてしっくりきます。メグレ自身は面識がないはずの男はメグレを知っていると言い、メグレもなんとか彼を見つけようとするのですが、その甲斐虚しく、男は殺されてしまいます。その時から男は“メグレの死者”と呼ばれるようになり、メグレもその死者を“自らの死者”として受け入れるのです。自分が助けられなかったという後ろめたさを抱きながら、普段は見にも行かない検死に朝まで付き合ったりします。 そしていつもように、どんな仕事をしていたか、生活を送っていたか、几帳面だったか?おしゃれだったか?その妻はどんな女か? と、男のすべてを知ろうとします。加えて、彼が何を伝えようとしたか、彼が誰から逃げていたかを、メグレ自身も男のようにパリ中を奔走しながら探っていきます。ジリジリと真実に近づくのですが、その背景の複雑さと犯罪の奥深さからなかなか解明することができません。ですが、もう一つの凶悪な事件との結びつきに気づいた時、メグレの頭の中で絡まった糸が一瞬にしてほどけ、真実が姿を表します。その意外な展開にぜひ驚いてください。また、物語の最後に見せる、メグレの優しさに心打たれる人も少なくないでしょう。 巻末に解説「メグレはなぜ不断に復活するのか」を収録。(土澤) ■詳細 文庫『メグレと殺人者たち』 河出書房新社 270ページ 2000年4月 新装新板初版 古書 表紙カバーに細かな傷が若干ありますが、他は特に目立った傷みはありません。
-
『HIBIKU ひびく』vol.3 clammbon Official Magazine 2010年5月10日発行 有限会社トロピカル
¥1,500
原田郁子(Vo.key)、ミト(B,etc)、伊藤大助(Dr)のスリーピースバンド、クラムボンにオフィシャルマガジンがある!のを知ったのは『HIBIKU』を編集し、いつの間にか共同でこのコエノエを運営している土澤さんとの出会いがきっかけだった。 冒頭は、アルバム『2010』についての3人インタビューで、添えられた写真がなぜか楽器とかじゃなくて、お酒のホッピー1ケース(笑)だったり、なぜか収入が減った!というミトさんのリアルな懐事情から始まる。。 ミトさん曰く、ホッピーは、彼らのスタジオがある山梨県小淵沢(新宿から「あずさ」で二時間)に機材と一緒に持ち込むのだそう。 その他、ソロインタビュー、対談、所属事務所トロピカル社長の豊岡歩さんへのインタビュー(バンドを結成した1995年から2009年までの年表つき!)などが、楽しく丁寧に編まれている。 クラムボンについての面白いインタビューはウェブ上にもたくさんあるけど、紙面の文字や色彩をなぞりながら見たり読んだり、そして部屋のどこかに置いておくというちょっとした贅沢を味わっている。 2015.12.27 星野陽介
-
Coyote コヨーテ No.53 星野道夫のアラスカの暮らし【中古】
¥4,500
私と苗字が一緒なので、かどうかわかりませんが、書店に勤めていた頃からなんとなく意識し、また動きの鈍い写真集コーナーの中で、定期的に動く定番が星野道夫さんでした。 没後20年を迎えたということで、全国を巡回する写真展が開催されたり、ほぼ日のTOBICHIでは35mmフィルムが100枚見れるという面白い企画が展開されているようです。そのほぼ日さんで、「なんでもない日の、星野道夫」と題して、編集者の松家さんと奥様の直子さんの対談がよかったです。奥さんが写真の整理をしていると、結婚後に奥さんが好きな花の写真が増えていたことに気づいたというくだりで、星野道夫さんは何も奥さんにそのことは言っていなかったそうなのですが、実は松家さんは道夫さんからそのことを聞いていた、という話が一つの道夫さんの人柄を現すエピソードとして印象的でした。 その対談でも話題にあった、Coyote コヨーテ 53号の星野道夫特集。ぜひ読んでみてください。 ■在庫あり:本の状態 新品で購入し、一読したのみのものです。表1、表4、天、地、小口、背、中身ともに、目立った傷、タバコの臭い、耳折れ、書き込みなどなく、大変良好な状態です。 ■詳細 出版社: スイッチパブリッシング (2014/9/15) ISBN-10: 4884183959 ISBN-13: 978-4884183950
-
『ムッシュ・ムニエルをごしょうかいします』佐々木マキ,絵本館,2000年(古本)
¥1,000
SOLD OUT
先に漫画の作品集『ピクルス街異聞』をご紹介した佐々木マキさんの絵本をご紹介します。 現在も活動中なので、著作がとても多い佐々木さん。絵本も例外ではなく、ストーリーと絵、両方をご本人が描かれたものだけでもじつにたくさんあります。この“ムッシュ・ムニエル”ものはシリーズ化されていて、ほかに『ムッシュ・ムニエルのサーカス』『ムッシュ・ムニエルとおつきさま』があります。 ヤギの魔術師であるムッシュ・ムニエル。魔術師の仕事は忙しく、そろそろ弟子でもとろうと街にやって来ます。自慢の魔術で子供をさらい、魔術師に育てる計画です。早速気に入った男の子を見つけますが…というお話。 絵本というと、1ページに1カット、もしくは見開き2ページで1カットで進んでいくことがほとんどですが、佐々木マキさんの絵本では時にコマ割りが使われています。そのことで、それまで単調だった時間の流れが一瞬スローモーションになる、あるいは、とても劇的になるんですね。同時に、それまで焦点の合ってなかったムッシュ・ムニエルの目の焦点が合って(笑)、彼が何を見ているか、何を感じているかが手に取るように感じられます。 そんなリズム感というか、絵本から感じられる時間の流れがおもしろく、短いお話ですが繰り返し読んでも飽きの来ない1冊です。(土澤あゆみ) ■詳細 単行本『ムッシュムニエルをごしょうかいします』 32ページ フルカラー 2008年4月 7刷 ■古書 表紙カバーに細かな傷が若干ありますが、他は特に目立ったいたみはありません。
-
『HIBIKU ひびく』vol.4 clammbon Official Magazine 2011年8月5日発行 有限会社トロピカル
¥1,500
土澤さん編集の、クラムボンオフィシャルマガジンvol.4。勝手ながらのピックアップポイントは「相撲!」「アメーバ!」「ミトさん!」のみっつ。 まず、表紙が相撲!関取の、餃子みたいな耳と、豊満な肉体とクラムボン。。なぜ、相撲なのかは今度土澤さんに聞いてみたい。ちなみにP22の郁子さんのバックは、お相撲さんのお尻(笑)! そして、本全体のアメーバのようなデザイン!これは、お相撲さんの丸みから?いや、きっとこれは、ベスト盤『クラムボン』『clammbon』の題字になっている、郁子さんの文字から来ているのではと推測。。ちなみに、この号の個人的なオススメはP06で、青盤、赤盤のジャケット制作秘話的コラム。装丁で有名な祖父江慎さんのコミカルなイラストと、原田姉妹のテキストで「bestばんができるまで」が解説されている。 最後は、ミトさん。3つのソロプロジェクトのあとの、ソロアルバム『DAWNS』特集で、彼のルーツを探るべく神保町から御茶ノ水を巡礼。お父様が常連だったという下倉楽器で、いろんな楽器を試したり、分からないことをとことん質問したりしていたそう。 東日本大震災は、この本の制作期間中に起こった。震災直後に、郁子さんがブログに書いた言葉がP26に掲載されている。 2015.12.28 星野陽介
-
『私の個人主義』夏目漱石, 講談社学術文庫
¥500
文豪 夏目漱石の講演集。 「現代日本の開化」 「道楽と職業」 「中味と形式」 「文芸と道徳」 1867〜1916 江戸牛込の生まれ。 東京大学英文科を卒業。 1900年文部省留学生として渡英、帰国後東京大学にて「文学論」「十八世紀英文学」を講ずる。まもなく朝日新聞社に入り、以後多くの名作を残す。
-
『飛ぶ教室』第14号―愉快な冒険物語
¥780
執筆中! 荒井良二、石川直樹 ■詳細 出版社: 光村図書出版 発売日: 2008/7/1 サイズ: 24 x 18.2 x 1.2 cm 発送重量: 340 g ISBN-10: 4895284247 ISBN-13: 978-4895284240 ■古書の状態 表4、地に若干の傷、汚れがございます。
-
『メグレ間違う』(古本)ジョルジュ・シムノン,河出書房新社
¥600
SOLD OUT
またまたシムノンのメグレシリーズのご紹介です。すっかりはまっています。 メグレ警視シリーズを読み始めたことから他の警察ものも読むようになったのですが、なぜこれほど警察ものに惹かれるのか自分でもよくわからなかったんです。でもふと、この作品を読んでいて気づいたことがありました。それは、メグレが捜査を進める中で、犯人や被害者はもちろん、その周囲にいる人々も含め、彼らのさまざまな側面、家族や友人ですら知り得なかったその人のまるごとが明らかにされるんですね。そのことにとても強く惹かれたのだと思います。 普通は、どんなに近しい人であってもその人のすべての面を知ることはほとんど不可能です。自分のことを考えても、家族や友達、仕事で関わる人、道ですれ違う人など、相手との関係によってその人への接し方を決めているわけで、同じ相手には自分の一つの側面しか見えていないことになります。 例えば「メグレ間違う」では冒頭で、被害者のリュリュという若い女は、貧しい家に生まれ、これまでもずっと貧しく、体を売って生活してきたことがわかります。それは誰もが知り得たリュリュのある一つの姿です。メグレは生きていた時の彼女を知らないので、残された写真から生きていた時の彼女の姿を思い浮かべ、住んでいた部屋やその持ち物からどんな毎日を送っていたか想像します。すると、そんな生活を続けていたにも関わらず、彼女がどこか子供っぽい純粋さを持ち続け、未来に淡い夢を抱いていたことに思い至ります。一方、彼女を囲っていた男は、地位も名声もお金もある、メグレも新聞などでその名を知っていた著名な人物。周囲にいる女たちは彼の偉大さを口にし、彼に取り入るためにどんなこともやろうとするほどです。でもその奥底には、自分以外の人間に対して非情なまでの冷たさを持っています。まるでモノに対するように、相手がどう思おうが、どうなろうが関係ないのです。そのことにメグレは気づき、それこそが事件の引き金になったことを暴き出します。 万が一その男の真の姿が見えなくても、いずれ事件は解決されたでしょう。ただ、メグレがこの事件で最も知るべきだと考えたのは、彼の本性であり、そこから生まれた歪んだ人間関係でした。 結果だけが求められるようになった現代では、ある人物が過程で行った行為、その人がどういう人であるかといったようなことが問題視されることはほとんどなくなってしまいました。果たしてそれは正しいことなのか? メグレシリーズを読むたびにそう考えてしまいます。(土澤) ■詳細 文庫『メグレ間違う』 248ページ 2000年9月 初版 ■古書 帯付き。表紙カバーに細かな傷が若干ありますが、他は特に目立った傷みはありません。
-
『猫ジャケ ~素晴らしきネコードの世界』レコード・コレクターズ増刊, ミュージックマガジン (古本)
¥2,000
SOLD OUT
「ネコード」というバカバカしくもかわいいタイトルが目につく1冊。説明するまでもなく、猫が登場するレコード/CDジャケットをひたすら紹介しまくる内容です。間に遠藤賢司のインタビューなどはあるものの、ひたすら猫ジャケに次ぐ猫ジャケ。読んでいるこちらも、「かわいいー、あーかわいい」という感想のみ。そのシンプルさが猫好き、音楽好きを惹きつけるのか、第2弾も出版されています。 本書を見ると、いかに音楽家に猫好きが多いかがわかります。犬好きよりも多いと思う、たぶん。そしてまた、たとえそれがどんなに残念な音楽であっても、猫がジャケットに載っているというだけで、ネコード・コレクターズの心を揺さぶる1枚となってしまうのですから、猫の販促力(?)にはすごいものがあるかもしれません。 夜、好きな音楽をかけ、お酒を飲みながらこの本をパラパラとめくっていると、なんというか、世界はとてもシンプルなものなんじゃないかという気がしてきます。(土澤) ■詳細 2008年8月発売 B5変型(210×182mm) 112ページ 中古品のため表紙などに多少のキズ、ヤケがあります。
-
『Coyote コヨーテ No.37 July 2009』いざ、南極へ -植村直己が向かった旅の先-
¥1,512
SOLD OUT
「植村直己 1972年の幻の「南極偵察日記」 一挙掲載」 雑誌『Switch』の版元である、スイッチ・パブリッシングが発行するもう一つの雑誌が『Coyote』だ。 確か発行人の新井敏紀氏が、星野道夫氏との対話をきっかけに始め、「旅する雑誌」をうたうだけあって、「旅する人」にフォーカスした号が、特にいい。 写真家のロバート・フランク、ロバート・キャパもいいし、冒険家の植村直己特集も私のお気に入りである。 紙面の大きさを活かして、植村直己の手書きのノートや資料、写真がフルカラーで展開されている。 個人的には、これを見たり読んだりすることで、旅に限らず、何か小さなことでも「冒険をしてみよう」という気持ちになる。その多くは、寝て起きると忘れてしまうものなのですが、ひょっとするとこのコエノエの活動も、『ゆがみ』で長野県松本市にある本&珈琲の栞日さんを取材させていただいたのも、その探検心みたいなものの片鱗を、何かかたちにしたいという欲求のあらわれなのかもしれない。 本号の魅力は、他にも、私の大好きな赤井稚佳さんのイラストと佐々木譲さんのテキストによる「旅行記を旅する」という旅行記のブックガイドコラムが始まった点や、植村直己の妻である公子さんへのインタビューや、植村直己より9つ上の冒険家 三浦雄一郎さんへのインタビュー、池澤夏樹氏による写真とテキストの「南極半島周航記」などなど、盛りだくさん。 日ごろ忘れがちで「行きたいところとか、なくなっちゃったな」とか嘯いているけれど、これからもいい旅をしたい。 きっと、私にとってのそれは、観光でも放浪でもなく、誰かの声を聴いたり、その土地の空気をそっと綴じていくことのような気がしている。意味があるかどうかは、分からないけれど。と思った矢先、自分より53も上の三浦氏が「冒険が意味ないという時代も必要だと思いますね」というくだりを見つけて、その真意を知りたくなった。(星野)
-
『あの世で罰を受けるほど』キリンジ,ぴあ
¥1,620
SOLD OUT
皆さん、キリンジというミュージシャンをご存じですか? 元々は堀込高樹、泰行という兄弟ユニットだったのですが、数年前に泰行が脱退。現在はkirinjiという表記で、兄の高樹がリーダーを務める、血縁関係のない5人バンドとなりました。弟の泰行はソロで活動しています。 彼らが雑誌『TVブロス』で連載していたコラムをまとめたのがこの1冊であり、記念すべきキリンジの初著書でした。『ブロス』で連載が始まると聞いた時は、それまでのライヴのほとんどに足を運んでいた熱心なファンの私ですら、「大丈夫なのかな? 『ブロス』の読者に読み飛ばされないかな…?」などと訝ったのですが、この連載は本当におもしろかったです。兄弟が交代で文章を書き、合わせてちょっとしたイラストが添えられた構成でした。 高樹の文章は、彼の楽曲で描かれる風景のその先、あるいはその過去を書いたようにも読めます。妙に現実的で、ある時ふと不意を突くような驚きやユーモアがある。そしてひたすら鋭い。一方泰行の文章は、そのメロディアスかつポップな音楽とは一味違う、なんというか、ざっくりしてる(笑)。ちょうど良い加減のぬるさがあるというか。兄と弟のそんなコントラストもおもしろく、つい先へ先へと読んでしまいます。さらに、メガネ男子の高樹が、さまざまなタイプのメガネをひたすら掛けるというファン垂涎(?)のコラムあり、今は亡き川勝正幸さんとの対談ありと、なかなかの濃さ。伊丹十三あたりのエッセイのファンにもおすすめします(褒め過ぎか)。(土澤)
-
『ヨーロッパ退屈日記』伊丹十三,新潮文庫
¥500
SOLD OUT
伊丹十三が若いころ、デザイナーで俳優、イラストやエッセイも書いていた、ということを知っている人は今どれくらいいるんだろう? かくゆう私もぼんやりとしか知らなかったのですが、伊丹十三のそうした経歴にある背景と、さまざまなモノ、事への(かなり偏った)知識とこだわりを知り、心酔するきっかけになった1冊。 このエッセイが出版されたのは、今から50年前の1965年。世界的には、ベトナム戦争があったり、マルコムXが暗殺された年です。日本では、海外への渡航が自由化されたばかり。そんな時代に、映画、車、ファッション、料理、音楽、絵画、英語などなど、それらが生まれた場所で、それらに直に触れた人が、真摯にそれらについて語ろうとする言葉の、そのリアリティーに圧倒される。一例を挙げるなら、海外のファッションに流される日本人についてのくだり。 たとえば、ネクタイとスーツに身を固める以上、人前でズボンをたくし上げたり、ワイシャツをズボンに押し込んだり、チャックを直したり、そういう真似はよしてもらいたいのである。 中略 エレヴェーターの前に数人の男女が待っていたとする。ドアが開いたとき真先に降りてくるのは男である。また真先に乗り込むのも男である。背広とネクタイに身を固めた男である。恥ずかしいではないか。筋が通らないではないか。(「ヨーロッパ退屈日記」抜粋) 物事の本筋を知ろうとする考え方は、これだけ嘘やパクリが公然としている今の社会には全く合わないかもしれない。でもそうすることでしか得られないものはたくさんあり、そうすることでしか本当の喜びやおもしろさも得られないのでは…と、この本を読んで思うのです。(土澤)
-
『ピクルス街異聞』佐々木マキ,青林堂,1993年
¥4,000
SOLD OUT
佐々木マキさんの漫画の作品集をご紹介します。佐々木さんは雑誌『ガロ』でデビューした、絵本作家としてもご活躍の漫画家、イラストレーター。私が佐々木マキさんの絵を知ったのは、村上春樹の初期の小説の表紙から。『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』『羊をめぐる冒険』『カンガルー日和』『ダンス・ダンス・ダンス』などなど、毎回、違った風景の中に顔のない人が佇む表紙は、シュールでありつつ、どこかスタイリッシュに感じたものです。 『ピクルス街異聞』にはさまざまな作風の作品がまとめられていますが、通底するのは、シュールさ、不条理さ。登場人物の一人、JJ・ピガール氏はコウモリになってしまうし、ムッシュ・ムニエルは、眼の焦点が合ってないヤギ(後にスピンオフ作品として絵本『ムッシュ・ムニエルをご紹介します』が描かれます)。彼らが闊歩する、国も、時代も、地球なのか異星なのかも曖昧な世界で、ほとんどセリフもないまま進む話は、ちょっとした悪夢のようでもあります。その世界を描き出す佐々木マキさんのタッチが素晴らしく、読み手の想像力をかきたて、あっという間に漫画の世界に引きずり込んでいきます。 佐々木マキさんの著作はたくさんある絵本が手に入れやすいので、興味がある方はぜひ手にとってみてください。(土澤あゆみ)
-
『日々』29号 特集:台湾 アトリエ・ヴィ
¥980
SOLD OUT
かつて勤め先の書店で開催したリトルプレスフェアでも仕入させていただいた『日々』。いまは何号までなんだろう?とググってみたら、36号(29号にも登場する伊藤まさこさんの責任編集で、お弁当の特集)になっていた。コエノエでもご紹介している武田百合子さんにも触れられているようなので気になる。 さてさて、こちらの号は、実は台湾特集である。表1、表4には、伊藤まさこさんによるポラロイド、、ではなくて、iPhoneで撮影された写真が、所狭しと並べられている。写真というのは、一枚でも意味を持つものもあるが、並べるだけで、急にパワーをもつ場合がある。『ゆがみ』のフォークロアでも、近いことをやっていて、自分はグリッドが好きなんだなと改めて思った。 日々さんの台湾行きは、長野県松本市の三谷龍二さんがきっかけだそうだ。松本にある三谷さんの「10センチ」には、私も、松本の栞日さんに取材させていただいた帰りに立ち寄ったのを思い出した。何かと縁があるものだ。 日々という活動母体があることで、台湾への旅が生まれて、それをまた日々でアウトプットするというサイクルが素敵だ。ちなみに松本行きも、そういう感じで、アウトプットはウェブで行った。 コエノエの活動でも、そのつながりから、国内外のどこかに旅をして、仕入をしたり、気づいたことを書き留めたり、発信するということをやってみたいと思う。 ■詳細 『日々』29号 2013年1月5日発売 64ページ フルカラー ■古書 表1、表4に、耳おれ跡、若干の痛みがございます。
-
BRUTUS(ブルータス)1999年 6/1号(中古)
¥2,000
SOLD OUT
好きな小説、好きな小説家から影響を受けることってありますよね。たぶん、村上春樹さんの小説やエッセイを読んでジョギングや水泳を始めた人はかなり多いのではないかと推測します。そういう自分もそのひとりなのですが、、。 村上さんは多くのエッセイの中で、自分にとって走ること、スポーツをすることの意味について書いています。それがいかに小説家である自分に影響を与えているか。近年では特にエッセイ集『走ることについて語るときに僕の語ること』でまとめらています。 このブルータスの特集は、そうした書籍が出る数年前のもので、村上さんが参加してきたマラソン年表から、走っている時の写真もたっぷり載っていて、ファンならニコニコしてしまう内容。また、巻頭に掲載されているのがエッセイではなくインタビューで、これがかなり新鮮です。当然ながらご本人との文体とも違うし、今から17年前なので、語り口も若々しい。エッセイなどよりももっとストレートな口調、ストレートな内容をお話されています。ぜひ手にとって見てください。(土澤あゆみ) ■詳細 『BRUTUS』(マガジンハウス) 1999年 6/1号 ■古書 経年劣化による色褪せがあります。大きなダメージはありません。