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『ヨーロッパ退屈日記』伊丹十三,新潮文庫

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伊丹十三が若いころ、デザイナーで俳優、イラストやエッセイも書いていた、ということを知っている人は今どれくらいいるんだろう? かくゆう私もぼんやりとしか知らなかったのですが、伊丹十三のそうした経歴にある背景と、さまざまなモノ、事への(かなり偏った)知識とこだわりを知り、心酔するきっかけになった1冊。

このエッセイが出版されたのは、今から50年前の1965年。世界的には、ベトナム戦争があったり、マルコムXが暗殺された年です。日本では、海外への渡航が自由化されたばかり。そんな時代に、映画、車、ファッション、料理、音楽、絵画、英語などなど、それらが生まれた場所で、それらに直に触れた人が、真摯にそれらについて語ろうとする言葉の、そのリアリティーに圧倒される。一例を挙げるなら、海外のファッションに流される日本人についてのくだり。

 たとえば、ネクタイとスーツに身を固める以上、人前でズボンをたくし上げたり、ワイシャツをズボンに押し込んだり、チャックを直したり、そういう真似はよしてもらいたいのである。
中略
 エレヴェーターの前に数人の男女が待っていたとする。ドアが開いたとき真先に降りてくるのは男である。また真先に乗り込むのも男である。背広とネクタイに身を固めた男である。恥ずかしいではないか。筋が通らないではないか。(「ヨーロッパ退屈日記」抜粋)

物事の本筋を知ろうとする考え方は、これだけ嘘やパクリが公然としている今の社会には全く合わないかもしれない。でもそうすることでしか得られないものはたくさんあり、そうすることでしか本当の喜びやおもしろさも得られないのでは…と、この本を読んで思うのです。(土澤)

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