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『西の魔女が死んだ』『沼地のある森を抜けて』などで知られる著者の連作短編集。
舞台は100年前の日本。駆け出し作家の綿貫征四郎が、庭木の百日紅(さるすべり)の木に思いを寄せられたり、里山で出会う狸や狐に化かされたりと、昔ばなしのような掌編が綴られる1冊。
征四郎がそうした出来事に驚いたり訝ったりする一方、隣のおかみさんや周囲の人は当たり前のこととして話すので、読んでいるこちらもなんとなくそういうことかと思える不思議な説得力があります。
まだ日本人が自然とともにあった、生と死、現実と幻想が混ざり合っていた時代に生きるものたち(人と人にあらざるもの、この世のものではないもの)がすべて横並びで、とてもイキイキと、時にはコミカルに描かれます。困っている相手に手を差し伸べる優しさと、生きるために相手をだますたくましさを持ち合わせ、ひたむきに与えられた世界を生きる彼らのなんとたくましいこと。物語であることを忘れ、日本人である自分のベースに彼らのそうした気質が少しでも残っていれば…と思ってしまいました。
続編である『冬虫夏草』は、本作の静謐さとは対象をなす、行方知れずになってしまったゴローを探しに旅に出る征四郎の冒険譚。タイトルは、虫に寄生し、その名の通り冬には虫の姿で、夏にはきのこの姿となる生態を持つ寄生きのこの名前。そんな、『沼地のある森を抜けて』とも通じる、与えられた場所、運命を生きる命の物語といえます。(土澤あゆみ)
■詳細
古書、文庫
七刷
経年によるスレ、折れなどがありますが、大きな傷みはありません
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