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『苔とあるく』田中美穂,WAVE出版(古本)
¥1,200
岡山県・倉敷市にある有名な古書店「蟲文庫」を運営する田中美穂さんの初著作。「蟲文庫」は雑誌で紹介されているのを読んで、いずれ行きたいと思っていたお店。その店主の人が本を出したというので手にとってみた、という出会いでした。その後お店も訪ねましたが、倉敷の美観地区にありながら、立ち並ぶ他のお店とは雰囲気を異にする、味のある古本屋さんでした。 お気に入りの古書店の紹介も、いずれこのサイトでやってみたいですね。 さて、『苔とあるく』のご紹介。植物の本なので図鑑や育て方ももちろん紹介されていますが、それよりも――たぶんそれこそが苔の魅力だと思うのですが――観察・採集の仕方、標本の作り方などが本書のメイン。学術書というより実用書といった趣で、その楽しさが、「ほったらかしだと、ただのゴミ」、「コケも風に揺れる」など、標語のような言葉とともに語られています。著者はまるで友人か飼っている猫に接するように親しげに苔について語り、苔を見つめ、育てる。その身近な視線がこの本をとても魅力的にしています。 本書に出会うまで、肉眼では姿がわかりづらい苔は私にとって、他の植物に比べると鑑賞の対象になりづらい存在でした。でも、この本に導かれるまま10倍のルーペをゲットして観察してみると、それぞれに全く違った姿をし、色も違い、小さな林や森のようにも見えてきます。また、その小さな植物があらゆる地表を、壁面を覆っていると思うとなんだかけなげでもあります。 一番驚いたのは、苔について書かれた文学作品があるということ。そんなジャンルがあったのか!とびっくりしつつ、その文章の美しいことにも驚かされます。その一部を抜粋してご紹介します。(土澤あゆみ) ※ちなみに写真の苔は、家の庭に生えていたものです。種類は…不明。 ●苔について/永瀬清子 まだここには 水と土と霧しかなかった何億年の昔 見渡してもまだ泳ぐものも這う者も 見当たらなかったおどろの時 濠濠の水蒸気がすこし晴れたばかりのしののめ おまえは陽と湿り気の中からかすかに生まれたのです なぜと云って 地球がみどりの着物をとても着たがっていたから いまでも私たちの傍にどこでも見られる苔よ お前は電柱の根っこにもコンクリの塀にも いつのまにか青をそっと刷いているのね まして街路樹の下の小さな敷物 敷石のあいだの細いリボン わかるよ 地球の望み 地球のほしがるもの 冬になっても枯れもせず 年中お前はしずかに緑でいる 人間はいつもそれをせっせとはがして 道路やビルを造っているのに でも苔は無言でつつましく 自分のテリトリーを守ろうとする 極致の建築をお前はつくる 描けば一刷毛か、点描でしかないのに それでもお前大きな千年杉のモデルなのよ そして繊毛のようなその茎の中に 秘密の静冽な水路があって 雄の胞子はいそぎ泳ぎ昇って 雌の胞子に出会うのです 大ざっぱすぎる人間には そのかすかな歓びがすこしも聴こえないけれども
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『メグレと殺人者たち』(中古) ジョルジュ・シムノン,河出書房新社
¥600
またしてもメグレ警視シリーズです。裏表紙の解説には「推理とサスペンスをリアルな筆致で描く最高傑作」とあり、かなり期待を煽られつつ手に取った1冊をご紹介します。 物語の発端は、2月のある昼下がり、メグレ宛にかかってきた知らない男からの緊急電話。その男は殺し屋に追われていると言い、取り乱して電話を途中で切ってしまう。そして、その後も場所を変えながらメグレに助けを求めてくるのだった。いたずらかと思いながらも部下のジャンヴィエにその男を探させ、メグレ自身も彼の道筋を追うが、男は姿を消してしまう。そしてその日の深夜、コンコルド広場で男の死体が発見される……。 この本の原題は「Maigret et son mort」=「メグレと彼の死人」で、読んでみるとわかるのですが、こちらのほうが物語のタイトルとしてしっくりきます。メグレ自身は面識がないはずの男はメグレを知っていると言い、メグレもなんとか彼を見つけようとするのですが、その甲斐虚しく、男は殺されてしまいます。その時から男は“メグレの死者”と呼ばれるようになり、メグレもその死者を“自らの死者”として受け入れるのです。自分が助けられなかったという後ろめたさを抱きながら、普段は見にも行かない検死に朝まで付き合ったりします。 そしていつもように、どんな仕事をしていたか、生活を送っていたか、几帳面だったか?おしゃれだったか?その妻はどんな女か? と、男のすべてを知ろうとします。加えて、彼が何を伝えようとしたか、彼が誰から逃げていたかを、メグレ自身も男のようにパリ中を奔走しながら探っていきます。ジリジリと真実に近づくのですが、その背景の複雑さと犯罪の奥深さからなかなか解明することができません。ですが、もう一つの凶悪な事件との結びつきに気づいた時、メグレの頭の中で絡まった糸が一瞬にしてほどけ、真実が姿を表します。その意外な展開にぜひ驚いてください。また、物語の最後に見せる、メグレの優しさに心打たれる人も少なくないでしょう。 巻末に解説「メグレはなぜ不断に復活するのか」を収録。(土澤) ■詳細 文庫『メグレと殺人者たち』 河出書房新社 270ページ 2000年4月 新装新板初版 古書 表紙カバーに細かな傷が若干ありますが、他は特に目立った傷みはありません。
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Magazine B / マガジンB : ISSUE No.27 CHAMPIONS LEAGUE【中古】
¥2,000
SOLD OUT
『Magazine B / マガジンB』は、なんと広告なしで毎月発行されている、「Brand Documentary Magazine / ブランド ドキュメンタリー マガジン」。発行しているのは、韓国ソウルに拠点を置くJOH & Companyだ。特集の中には、私も好きなブロックのLEGO、アイスのハーゲンダッツ、老舗出版社のペンギン、インターネットのGoogleなど、彼らが着目する実に様々なブランドが取り上げられています。一見、広告で賄っているのか?と思いきや真逆の発想。「not affected by advertisements since it receives no financial support from the brand」から、メディアとしての中立性にこだわりを感じます。ブランドの選定は、同社のJOHが、四つの基準【beauty】【practicality】【 price】【 philosophy】を持って、世界中から毎月一つ、ピックアップするそうだ。 --- ■ ISSUE No.27 the UEFA Champions League / チャンピオンズリーグ 特集です。 ISBN 9788998415549 ■参考 http://johcompany.com/magazine-b/ http://magazine-b.com/en/champions-league/ ■状態 新品で購入し、一読したものです。大変良好な状態かと思います。
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SAVVY(サビー) 日本のおやつ特集 2014年12月号(中古)
¥400
『SAVVY』は関西で発行されている女性向け情報誌。当然紹介されているお店、イベント情報などは関西のものだけなので、東京に住んでいる人が買ってもね…と思うかもしれませんが、これがおもしろいのです! 女性向けなので、こちらで言うと『Hanako』あたりが競合誌。「カフェ&喫茶店」「京都」『雑貨店」などいかにもなものが多いのですが、時々、この号のようにかなりピンポイントな特集を展開してくれます。例えば、「関西の北欧雑貨店」「喫茶店・カフェのモーニング」「歩く日帰り旅」などなど。そういう特集タイトルを目にするたび、“攻めてるな~”と嬉しくなります。 この「日本のおやつ」特集号は、大福・みたらしだんご・ぜんざい・鯛焼きなどの和菓子をこれでもかと紹介しています。表紙に「あんこ好きに 完全保存版です!」と謳うくらい気合の入った内容(でも、おせんべいなどもちゃんと載ってます)。お店で買える、食べられる、取り寄せられるお菓子はもちろん、新進気鋭の和菓子職人さんの作るお菓子までが紹介され、和菓子好きでなくてもつい食べたくなってしまうはず。また、写真やレイアウトも美しく、誌面を見ているだけで目の保養になります。京都や大阪に旅行に行かれる際のお供にいかがですか?(土澤あゆみ) ■詳細 『SAVVY』 2014年12月号 128ページ フルカラー ■古書 古本の使用感はありますが強いダメージはありません。
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TOKYO ISLANDS 島もよう 大島/利島/新島/式根島/神津島 (古本)
¥980
次の土日、どこかに行きたいけど、箱根でも軽井沢でも諏訪でも熱海でもない!そんなときは、東京都の伊豆大島がおすすめです。浜松町から高速フェリーで1時間45分。つまり船旅が楽しめて、海に囲まれた島の雰囲気が味わえるショートトリップ。 雑誌エココロから出た『島もよう』は、このまさか東京都!の島々のうち、5つを丁寧に紹介。船の予約さえしておけば、食べる、泊まるは『島もよう』を参考になんとなかなるはず。手のひらに乗るサイズ感と、ザラッとした紙質が、島の味わいを醸し出しているよう。また、これ片手に全島制覇!とは言わないけれど、島散歩を楽しみたいです。 星野陽介 2016.5 ■状態 可:1度、旅に持っていった程度の使用感です。全体的にきれいな状態といえます。 ■詳細 出版社 エスプレ 発売日 2011/7/15 言語 日本語 梱包サイズ 18.8 x 12.4 x 0.6 cm 発送重量 159 g 本の長さ 172 ISBN-10 4903371824 ISBN-13 978-4903371825
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POPEYE(ポパイ)2015年8月号「サマーボーイ、サマーガール」【中古】
¥400
SOLD OUT
夏ってなかなか楽しいものだな、と思うようになったのはここ2~3年のこと。それまでは、外は暑くて屋内や電車は寒く、みんなが浮かれてて、異常気象のせいで災害が起こる季節、と、その嫌な側面にしか目が行かなかったのですが。でも、そういうものだと思ってからは、夏の晴れた夕暮れは美しいし、そうめんはおいしいし、川遊びは楽しい、と、良い面に目を向けられるようになりました。 そんな夏の楽しさをポパイ的に切り取った特集「サマーボーイ、サマーガール」号。プール、夏のデート、夏のファッション、夏のエチケット、アイスクリーム、かき氷に冷やし中華と、思いつく限りの夏コンテンツが紹介されています。中には「夏のツンドク」なんていうコーナーもあり、“そうか、暑くて本が読めなくても積んでおけば良いのか!”と、なぜか本屋に行きたくなります。 ぜひ今年の夏を楽しむヒントにしてみては?(土澤) ■詳細 『POPEYE』(マガジンハウス) 2015年 8月号 ■古書 経年によるスレ、折れなどが一部があります。大きなダメージはありません。
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『色名小事典』監修:財団法人日本色彩研究所,日本色研事業
¥3,500
SOLD OUT
皆さんは色の名前をどれくらい知っていますか? 私はせいぜい20色ほど。本書は220の色の英語名、和名、その由来などについて記述した事典です。色の事典なんて見ているだけで楽しそうと手にとったのですが、これがもう、美しさと新たな発見に満ちた1冊なのです。普段当たり前に目にする「白」や「茶色」や「赤」にはじつにさまざまなバリエーションがあり、その一つひとつが意味を持っています。 例えば、身の回りにあるものを見て、それらの色合いが美しいと感じますか? お菓子やペットボトルのパッケージ、ノートや本、パソコンの画面。色が気に入って買ったマフラーや鞄でさえも、手元に置いていると機能や実用性の影に隠れ、色は存在をなくしていくという感じがします。そんなときにこの事典を開くと、単に「紺色」と思って使っていたペンの色が「ミッドナイトブルー」という素敵な色だったり、「ベージュ」だと思っていたマフラーが「マカロン」というかわいい色だったり。知らなかった色の名前を知ることで、新たな視点を獲得できるような気さえしてきます。 また、その名前の多くが植物や動物などに由来するのですが、特に和名には美しい響きを持つものが多いのです。「若菜色(わかないろ)」「珊瑚色(さんごいろ)」「菖蒲色(あやめいろ)」「白藍(しらあい)」……。ぜひ色の持つ奥深い世界に触れてみてください。(土澤)
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『SPECTATOR スペクテイター〈29号〉 』ホール・アース・カタログ 〈前編〉
¥3,930
SOLD OUT
スティーブ・ジョブス(1955-2011)は、2005年6月12日のスタンフォード大学でのスピーチで、ウェブ普及以前の「Google」だとして『WHOLE EARTH CATALOG』(以下、WEC)を取り上げた。私がその動画を初めて見たのは、おそらくその2-3年後のはずで、その後もSonyのMP3プレーヤー(iPodではなく)に音声データを入れて、通勤時間によく聞いていた。Jobsがこの世を去った翌年の2012年9月には、Walter Isaacsonによる伝記が発売され、当時洋書売り場にいた私は、Jobsのなら読めるのではないか?と思い、英語版、、しかもイギリス版を購入した。アメリカの出版社のものも発売されていたが、カバーの質感がイギリス版のほうがマットな感じで気に入ったからだ。翻訳版が待ちきれずに、かっこつけて洋書を購入したものの、Paul Austerの小説でこけたように、読みきるまでに1年くらいかかったと記憶している。 WECの副題は「access to tools」で、のちにその紙面構成を何かの資料で見た。Googleは検索しないと情報を引っ張り出せないが、WECは大きな版型を活かして、検索しなくても何かを見つけ出せる(かもしれない)カタログになっていた。カタログといっても、日本のよくある通販カタログやその他の雑誌とは違うのは、掲載された商品のブランディングや販売が目的ではないからだろう。冊子が、今でいう「クラウド」になっていて、読者(主にヒッピー)は有用と思われる情報を編集部に投稿できる仕組みがあった。生きていくための道具や考え方を共有する場になっているようだった。マッキントッシュ、、つまりDTPが発達する前の時代だから、手作り(DIY)で始めたということも知った。実はWECの本物を見るのは、2015年の夏になってからなのだけど、思想からデザインまで「かっこいいな」と思った。 書店からウェブ業界に転じたのも、このWECとAmazonの影響がかなり大きい。私が卒業した大学は1年生からラップトップPCの購入が必須で、校内どこでも無線でネットにつながっていたにも関わらず、ITの躍進を肌で実感したのは2012年と出遅れた。(というより、当たり前すぎて気づけなかったのだろう。)情報の伝達や入手は、紙に印刷して、束ねて、流通させたものを購入するだけでなく、どこか遠くのでっかいパソコン(サーバー)に置いておけば、あとは手元のPCやタブレット、iPhoneなどのブラウザから、情報のありか(URL)をたたけば出てくるという発明に改めて気づいた。 そんなWECについてまとめられた本が、雑誌『スペクテイター』から出ている。年三回発行の雑誌で、前編・後編と二号に渡って特集している熱の入り方だ。年表など、見ているだけでわくわくしてくる。 2015.11 星野陽介 ■詳細 出版社: 幻冬舎 発売日: 2013/12/24 ISBN-10: 4344951883 ISBN-13: 978-4344951884 版元在庫切れ商品です。 ◾️状態 表紙左上端に、ややそりがあります。 表紙左下端のビニール加工部分が3ミリほどはがれています。 その他、タバコの匂い、耳おれ、書き込みなどもなく大変良好な状態です。
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『文字の食卓』正木 香子
¥1,944
SOLD OUT
小説、絵本、漫画、雑誌。 いろんな事例から「文字の味見」ができる本。 コンテンツとしては、ウェブが先にあって、後に書籍化したらしい。 眺めていると、本当に文字を咀嚼して、味とにおいを感じて、音を楽しめるようになってくる。 例、チューインガムの文字。炊きたてご飯の文字など。 ■詳細 出版社: 本の雑誌社 発売日: 2013/10/24 言語: 日本語 梱包サイズ: 2 x 15 x 18 cm ISBN-10: 4860112474 ISBN-13: 978-4860112479
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『Coyote コヨーテ No.37 July 2009』いざ、南極へ -植村直己が向かった旅の先-
¥1,512
SOLD OUT
「植村直己 1972年の幻の「南極偵察日記」 一挙掲載」 雑誌『Switch』の版元である、スイッチ・パブリッシングが発行するもう一つの雑誌が『Coyote』だ。 確か発行人の新井敏紀氏が、星野道夫氏との対話をきっかけに始め、「旅する雑誌」をうたうだけあって、「旅する人」にフォーカスした号が、特にいい。 写真家のロバート・フランク、ロバート・キャパもいいし、冒険家の植村直己特集も私のお気に入りである。 紙面の大きさを活かして、植村直己の手書きのノートや資料、写真がフルカラーで展開されている。 個人的には、これを見たり読んだりすることで、旅に限らず、何か小さなことでも「冒険をしてみよう」という気持ちになる。その多くは、寝て起きると忘れてしまうものなのですが、ひょっとするとこのコエノエの活動も、『ゆがみ』で長野県松本市にある本&珈琲の栞日さんを取材させていただいたのも、その探検心みたいなものの片鱗を、何かかたちにしたいという欲求のあらわれなのかもしれない。 本号の魅力は、他にも、私の大好きな赤井稚佳さんのイラストと佐々木譲さんのテキストによる「旅行記を旅する」という旅行記のブックガイドコラムが始まった点や、植村直己の妻である公子さんへのインタビューや、植村直己より9つ上の冒険家 三浦雄一郎さんへのインタビュー、池澤夏樹氏による写真とテキストの「南極半島周航記」などなど、盛りだくさん。 日ごろ忘れがちで「行きたいところとか、なくなっちゃったな」とか嘯いているけれど、これからもいい旅をしたい。 きっと、私にとってのそれは、観光でも放浪でもなく、誰かの声を聴いたり、その土地の空気をそっと綴じていくことのような気がしている。意味があるかどうかは、分からないけれど。と思った矢先、自分より53も上の三浦氏が「冒険が意味ないという時代も必要だと思いますね」というくだりを見つけて、その真意を知りたくなった。(星野)
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『メグレ、ニューヨークへ行く』ジョルジュ・シムノン,河出書房新社,長島良三訳(1977)
¥500
SOLD OUT
ジョルジュ・シムノンのメグレ警視シリーズの1冊。 この作品ではメグレはすでにパリ警視庁を退職していて、舞台もフランスでなくアメリカなので、他のメグレ警視シリーズとはかなり雰囲気が違うのです。登場する人物たちもメグレに対して、「名前は一応知ってるフランスの元警視」って感じで冷たいし(フランスではもちろん大切にされている)、メグレ自身も、言葉があまり通じなかったり、フランスでのように物事が運ばないことにイライラしてて、これだけ読んだら、「勝手に偉そうにしているフランス人のおっさん」という印象。 個人的にも、現役時代の、個性のある部下たちを引き連れて地道に捜査して、少しずつ犯人を追い詰めていくメグレ警視が好きなので、正直なところ、最初はイマイチ入り込めなかったのでした。しかも、依頼者であるはずの若者は物語の冒頭で姿を消して、その父親からは、「問題なんかない、はよフランスに帰れ」(翻訳の意訳)と冷たくあしらわれるし…。 それでもやはりメグレ警視なので、見ず知らずの青年のために一人ニューヨークまで来てしまった自分を呪いつつ、青年が何を自分に依頼したかったかを知るために一歩一歩進んでいくのですね。そしていつものように、すべてについて予想したり予測したりせずに、じっと対象を見つめて、全体が浮かび上がった時に初めてそれと判断を下すのです。 終盤、問題などないと言ったはずの青年の父親が昔関わった事件がまだ終わってなかったことを少しずつ探り当てて、明らかにしていくくだりは「おお~!」と盛り上がること間違いなし。犯人たちに法的な裁きは受けさせられないけど、それがどれほど愚かなことかを怒りとともに本人たちに突きつける姿も激カッコ良いのです。 でも表現に回りくどいところが多くて、実際にどういう犯罪が行われたのかが2度読んでもふんわりしかわからなかったこともお伝えしておきます…。(土澤)
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『メグレと口の固い証人たち』ジョルジュ・シムノン,河出書房新社
¥500
SOLD OUT
メグレ警視シリーズ2冊目のご紹介です。 この河出の文庫新装版は、色使いがポップでもどこか不穏な雰囲気が漂っている表紙が大好きなのですが、本作のカバーもとても良いです。ちなみに描かれているのは古川タクさんというアニメーター/イラストレーターさんです。 さて、本作の舞台は、メグレが子供の頃はどんな食料品店にも売っていたビスケット、ウエハースの会社を運営する一族の住む家。しかし今では誰もそのメーカーのお菓子を食べていません。メグレは子供の頃に食べたビスケットの「ちょっとボール紙のような味」を思い出します。その家で、実質会社を取り仕切っていた長男が射殺されました。強盗による深夜の犯行のようでしたが、奇妙なことに、家にいた家族6人は誰一人、何も聞かず、何も見ていません。しかも、取り調べの最初から弁護士を呼んで、メグレに何も話そうとせず…。 というお話。メグレはいつもように捜査しようとしますが、家族の顧問弁護士は若く、家族への尋問にうるさく口を挟んでくるだけでなく、こちらも若い予審判事は、昔ながらのメグレのやり方を認めず、またその捜査方法を知ろうとメグレにぴったりとくっついてきます。そこでメグレは、家族から少し離れたところを捜査し始めます。その中で掴んだ手がかりのようなものをきっかけに徹底的に探り出していき、少しずつ家族が隠し通したかったことと事件の真相が明らかになっていきます。 この作品のテーマの一つは、もちろん事件解決の過程とその結果であり、もう一つは、次世代である顧問弁護士と予審判事、古い世代であるメグレの対立、というところにあります。メグレの長年のライバルだったコメリオ判事はすでに引退し、メグレ自身も2年後に引退を控えています。休日には夫人と引退後のことをいろいろと話し、その日を楽しみにしていますが、一方では、慣れ親しんだ警視庁に通わなくなることに寂しさを感じ、また、ささいなことで自分が老人になったように感じて憂鬱な気持ちにさえなります。 メグレは40年以上警察官を務め、今ではパリ警視庁のトップの一人であり、ヨーロッパでもその名を響かせる名捜査官です。しかも、身長180センチ、体重100キロの巨漢で、もうほとんど怖いものなしのような人物。それでもなお、自分より20も下の若者の存在に頭を悩ませ、彼らの夢まで見るんですね。そして彼らの至らなさを見るにつけ、自分が老人になってしまったように感じて不機嫌になる。その繊細なメグレがとても良いのです。見るからにぶすっとして、周囲を寄せ付けなくなる。まるで子供のようです。 でも、部下たちはメグレのその不機嫌な気持ちに一瞬にして気づいて、ピリリとすると同時に、メグレを気遣うんですね。物語の中では、メグレは事件に関係すること以外は部下たちとあまり話さないので、両者の関係はあまりわからないんです。また、事件を捜査している時以外のメグレは、お酒とパイプ、夫人の作る料理が好きな、ちょっと怒りっぽいところのある普通のおじさんという感じ。そう考えると、部下たちがメグレの機嫌を一瞬のうちに悟ることができ、不機嫌ならは全員が気遣うのは、ひとえに、メグレの捜査官として、司令官としての優秀さに寄るものなんですよね。その1点が彼らのゆるぎない関係性を作っている、ということにとても惹かれます。 メグレ警視シリーズでは、メグレだけでなく、メグレにひたすら付き合う部下たちの姿もイキイキと描かれます。そんなところも読みどころです。(土澤)
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『初秋』ロバート・B・パーカー,ハヤカワ・ミステリ文庫
¥864
SOLD OUT
ハードボイルド小説の大家、ロバート・B・パーカーの作品から『初秋』をご紹介します。『初秋』は、いくつかあるシリーズのうち、アメリカ・ボストンを舞台に私立探偵スペンサーが活躍するシリーズ物です。同シリーズが始まったのは1973年。それまでのハードボイルドものといえば、ダシール・ハメットやレイモンド・チャンドラーらが生み出した、タフで、つねに孤独な男の生き様を描く作風がメインでしたが、パーカーはこのシリーズで、時には恋人の力を借りて事件を解決したり、料理が得意で読書が趣味という現代的な探偵像を作り上げ、多くのファンを獲得しました。 さて、本作のおもしろさは、ちょっとした事件から始まった物語が、いつの間にか『マイ・フェア・レディ』のように展開するところにあります。スペンサーがその事件で出会った少年ポールは、お互いに対立する両親から愛されたことがなく、自分にも、誰にも、何にも関心を持つことができなくなっているんですね。そんな少年を放っておけないスペンサーが、自立する力を付けさせようと、体を鍛え、正しい生活を叩き込んでいきます。そして2人はさまざまな困難を乗り越えて…というお話。 ポールのことを「まったく可愛げがない」と思いつつも、これまでずっと虐げられてきた彼に、生きる力を得ることでしか人生を切り開くことができないと教えるスペンサーの心持ちは、宗教的な教えに通じるところさえあります。また、スペンサーシリーズでは、男と女や白人と黒人、社会的地位が高い者と低い者などの対立や協調が描かれますが、本作では、親と子という絶対的な支配関係において、両者がどう生きるべきかということについても語られます。物語としてはファンタジーのように思える部分もなくはないものの、こうしたテーマはどんな世代にも響くのではないかなと思います。 それまで勝手に、大衆的過ぎるという理由でミステリファンから敬遠されている印象だった(本当にすみません)パーカー作品に対する印象が、この本に出会うことでガラリと変わりました。ちなみに、この小説の設定を基に、村上春樹が『ダンス・ダンス・ダンス』の一部分を書いたという説もあり、春樹ファンにもオススメの1冊です。(土澤)
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365 Things to know
¥3,500
SOLD OUT
歴史、文化、自然科学、、、身の回りの不思議を、バランスのよいイラストとテキストで解説。子ども向けの本というよりも、おとなでも楽しめる絵本図鑑です。ページによっては4色だったり、色が限られているのも味があって好きです。 2016.08.02