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『メグレと口の固い証人たち』ジョルジュ・シムノン,河出書房新社

¥500 税込

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メグレ警視シリーズ2冊目のご紹介です。

この河出の文庫新装版は、色使いがポップでもどこか不穏な雰囲気が漂っている表紙が大好きなのですが、本作のカバーもとても良いです。ちなみに描かれているのは古川タクさんというアニメーター/イラストレーターさんです。

さて、本作の舞台は、メグレが子供の頃はどんな食料品店にも売っていたビスケット、ウエハースの会社を運営する一族の住む家。しかし今では誰もそのメーカーのお菓子を食べていません。メグレは子供の頃に食べたビスケットの「ちょっとボール紙のような味」を思い出します。その家で、実質会社を取り仕切っていた長男が射殺されました。強盗による深夜の犯行のようでしたが、奇妙なことに、家にいた家族6人は誰一人、何も聞かず、何も見ていません。しかも、取り調べの最初から弁護士を呼んで、メグレに何も話そうとせず…。

というお話。メグレはいつもように捜査しようとしますが、家族の顧問弁護士は若く、家族への尋問にうるさく口を挟んでくるだけでなく、こちらも若い予審判事は、昔ながらのメグレのやり方を認めず、またその捜査方法を知ろうとメグレにぴったりとくっついてきます。そこでメグレは、家族から少し離れたところを捜査し始めます。その中で掴んだ手がかりのようなものをきっかけに徹底的に探り出していき、少しずつ家族が隠し通したかったことと事件の真相が明らかになっていきます。

この作品のテーマの一つは、もちろん事件解決の過程とその結果であり、もう一つは、次世代である顧問弁護士と予審判事、古い世代であるメグレの対立、というところにあります。メグレの長年のライバルだったコメリオ判事はすでに引退し、メグレ自身も2年後に引退を控えています。休日には夫人と引退後のことをいろいろと話し、その日を楽しみにしていますが、一方では、慣れ親しんだ警視庁に通わなくなることに寂しさを感じ、また、ささいなことで自分が老人になったように感じて憂鬱な気持ちにさえなります。

メグレは40年以上警察官を務め、今ではパリ警視庁のトップの一人であり、ヨーロッパでもその名を響かせる名捜査官です。しかも、身長180センチ、体重100キロの巨漢で、もうほとんど怖いものなしのような人物。それでもなお、自分より20も下の若者の存在に頭を悩ませ、彼らの夢まで見るんですね。そして彼らの至らなさを見るにつけ、自分が老人になってしまったように感じて不機嫌になる。その繊細なメグレがとても良いのです。見るからにぶすっとして、周囲を寄せ付けなくなる。まるで子供のようです。

でも、部下たちはメグレのその不機嫌な気持ちに一瞬にして気づいて、ピリリとすると同時に、メグレを気遣うんですね。物語の中では、メグレは事件に関係すること以外は部下たちとあまり話さないので、両者の関係はあまりわからないんです。また、事件を捜査している時以外のメグレは、お酒とパイプ、夫人の作る料理が好きな、ちょっと怒りっぽいところのある普通のおじさんという感じ。そう考えると、部下たちがメグレの機嫌を一瞬のうちに悟ることができ、不機嫌ならは全員が気遣うのは、ひとえに、メグレの捜査官として、司令官としての優秀さに寄るものなんですよね。その1点が彼らのゆるぎない関係性を作っている、ということにとても惹かれます。

メグレ警視シリーズでは、メグレだけでなく、メグレにひたすら付き合う部下たちの姿もイキイキと描かれます。そんなところも読みどころです。(土澤)

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