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『初秋』ロバート・B・パーカー,ハヤカワ・ミステリ文庫

¥864 税込

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ハードボイルド小説の大家、ロバート・B・パーカーの作品から『初秋』をご紹介します。『初秋』は、いくつかあるシリーズのうち、アメリカ・ボストンを舞台に私立探偵スペンサーが活躍するシリーズ物です。同シリーズが始まったのは1973年。それまでのハードボイルドものといえば、ダシール・ハメットやレイモンド・チャンドラーらが生み出した、タフで、つねに孤独な男の生き様を描く作風がメインでしたが、パーカーはこのシリーズで、時には恋人の力を借りて事件を解決したり、料理が得意で読書が趣味という現代的な探偵像を作り上げ、多くのファンを獲得しました。

さて、本作のおもしろさは、ちょっとした事件から始まった物語が、いつの間にか『マイ・フェア・レディ』のように展開するところにあります。スペンサーがその事件で出会った少年ポールは、お互いに対立する両親から愛されたことがなく、自分にも、誰にも、何にも関心を持つことができなくなっているんですね。そんな少年を放っておけないスペンサーが、自立する力を付けさせようと、体を鍛え、正しい生活を叩き込んでいきます。そして2人はさまざまな困難を乗り越えて…というお話。

ポールのことを「まったく可愛げがない」と思いつつも、これまでずっと虐げられてきた彼に、生きる力を得ることでしか人生を切り開くことができないと教えるスペンサーの心持ちは、宗教的な教えに通じるところさえあります。また、スペンサーシリーズでは、男と女や白人と黒人、社会的地位が高い者と低い者などの対立や協調が描かれますが、本作では、親と子という絶対的な支配関係において、両者がどう生きるべきかということについても語られます。物語としてはファンタジーのように思える部分もなくはないものの、こうしたテーマはどんな世代にも響くのではないかなと思います。

それまで勝手に、大衆的過ぎるという理由でミステリファンから敬遠されている印象だった(本当にすみません)パーカー作品に対する印象が、この本に出会うことでガラリと変わりました。ちなみに、この小説の設定を基に、村上春樹が『ダンス・ダンス・ダンス』の一部分を書いたという説もあり、春樹ファンにもオススメの1冊です。(土澤)

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